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#088『想像の旅』

2022-03-12

過去のブログでも度々登場している“本”ですが、お店にはアンティーク以外の書籍もたくさんあります。

お仕事やご縁で戴いたものや個人的な興味で観に行った先々で買ったもの、学生時代に教科書として購入して今も持っているものなど。
お店に置いていないものも含めると結構な量になるのですが、今回はそのうちの1冊をご紹介しようと思います。
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赤いハードカバーに、赤ちゃんをおんぶする馴染みある装いの人物が描かれた大きな本。
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おそらく長年ブックケースかキャビネットに入れられていたと思いますが、本として年季の入った感じです。
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実はこの本、以前買い付けの際にイギリスの有名なコレクターさんから「You日本人だから、こういうの興味ない? 世界限定500冊でオリジナル初版のフルサイズ特装版だよ」と紹介されたのですが、全く知らないジャンルのため最初はいまいちピンときませんでした。
その上、価格も高額でしたので正直迷いました。

でも、そのタイトルや挿絵はもちろん、時代的にはだいぶ遡りますがシノワズリ流行以降の西洋からみた東アジアのイメージやモノのデザインに与えた影響、1851年に開催された第1回万国博覧会(ロンドン)以降のアジア諸国との貿易を含む人々の往来などには元々興味があり、現在のように情報が溢れているわけでもなく、またそれが伝わる速さも今の比ではなかったであろう時代に、日本の文化に惹かれた当時のヒトってどんな人???という興味から譲っていただきました。

『Green Willow and other Japanese Fairy Tales』by Grace James (1910年/明治43年発行)

内容は、日本各地のお伽話や昔話が40作、カラーの挿絵と共に載っています。

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『浦島太郎』
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『桃太郎』
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『舌切り雀』
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お馴染みの作品たちですね。

他には『分福茶釜』や『花咲か爺』、『スサノオ』など古事記の神話も書かれています。

そんな中、表紙を開いて直ぐ、"TO MISS ETSUKO KATO” とだけ書かれたページがありました。
どの漢字が当てはまるのか不明ですが、発音だけを考えると日本人の名前ですよね?
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となると、このカトウ エツコさんは気になりますし、これを記した作者のことも益々気になります。
でも、当時の本のことを本で調べる術はなく、ネットを使って調べてみました。

英国人の著者グレイス・ジェイムスさんは、児童文学作家で日本の民俗学者でもあったとのことです。
と言うのも、イギリス海軍将校の父を持ち、当時の大日本帝国海軍外国人顧問団のメンバーを務めた父親の仕事の関係で1882年に東京で生まれ、12歳(1894年)まで日本で過ごしたそうです。(Wikipediaより)
その後、家族全員でイギリスに戻り、彼女が28歳の時この本を出版されたことになります。

なるほどですね。

個人的には、日本の古い物語を英語で書いたという点と、父親がイギリス軍医という点で小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)というお名前がふと頭に浮かびましたが、30歳以上の年の差や来日の経緯、それに加えて帰化して上京したとされる1896年(小泉八雲記念館年譜より)には彼女は既にイギリスに戻っているので、この二人に直接的な接点は無いんでしょうね。

ただ、彼がお亡くなりになったのが1904年、そのとき彼女は22歳。
同じ日本を舞台とした民俗学者なので二人のお名前で検索したところ、とあるサイトにHearn・Lafcadio/ James・Graceの両名が著者に記された書籍が出てきました。
でも、発刊は1918年でニューヨークの出版社によるものでしたので、はっきりしたことは不明です。


そして、もう一人の主役でもあるイラストを手掛けたウォーリック(ワーウィック)・ゴーブルさん(1862-1943)を検索したら、日本とインドのテーマを専門とした挿絵画家さんで、作品もたくさん残されているようです。

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次にページをめくると、まえがきが書かれていました。

ざっくりした内容としては、この本には古事記を含む神話や日本の古い物語を記した旨や、それらはもともと彼女が幼い頃に “a schoolfellow or a nurse” (ご学友や子守りまたは保育をしていた人)から聞いたものであること、そしてこれら物語の多くはもっと前に英語に翻訳されていることなどが記されています。

(ということは、先述のカトウ エツコさんは学校のお友達か幼い彼女を世話されていた方だろうか?)

検索するのがだんだん楽しくなってきましたので、ここに書かれているMarcus B. Huishさん(1843-1921)Mrs. T. H. Jamesさん(1851-?)も検索してみました。
文脈から、この本に掲載されている作品を提供したお二人のようですね。

マーカス・ボーン・ヒューイッシュさんは英国の法廷弁護士、作家、美術商と、いろいろな肩書をお持ちだったようで、瑞宝章も授与された親日家だったとのことです。

次にT.H.ジェームス夫人を検索すると、トップに大英博物館の関連ページ(デジタルアーカイブズ)が出てきました。
それによると、Tはトーマス、Hはヘンリー、日本の童話を英語に翻訳されていたらしく、1901年の国勢調査ではロンドン南部クロイドンにて当時50歳との記録があるようですが、その後の表記はありません。
でも、同ページのバイオグラフィの部分に、1888年にエルスぺスアイリス(Elspeth Iris)という名の娘さんが日本で生まれたとありました。

ん?

著者のグレイスさんが日本で生まれたのが1882年でしたので、勝手な想像ですが、何か繋がった感じがしました。
なので、その夫であるトーマス・ヘンリー・ジェームスさんが英国海軍関係者なら???

と次の展開に期待を込めて検索したら、日本でもお馴染みの人気者たちが出て来ましたぁ~!

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「というお話しでした。」←わかる方だけにでもわかっていただければ(笑)

ま、トーマス、ヘンリー、ジェームス、いずれも珍しい名前ではなく沢山おられますよね...

さておきまして、その後いろいろ検索していると、なぜかPCでは出て来なかったのですがスマホには表示された10年以上前のネット記事から、この本の著者グレイスさんは、やはりジェームス夫人の娘さんだったようです。

よって、グレイスさんは母親の跡を継ぎ、そのお母さんが翻訳した『松山鏡』という物語を含め出版した本であることまでは判りました。
出版社はマクミランではありませんが、電子書籍としては2019年、紙の本としては2020年にも装いを変えて出版されているようですので、今も読み継がれている1冊なのかも知れませんね。

ということで、カトウ エツコさんのことは判りませんでしたが、益々興味が沸いてきましたので、また時間のある時にちゃんと調べて、もし何か進展があればあらためて書こうと思います。

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