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#105『ビクトリア時代のちょっと前と来週のお話し』

2023-11-26

現在メンテナンス中のチェアです。

古い座面を剥がし終えると、本体を一度分解して各パーツ毎のチェックと膠(ニカワ)の除去、必要に応じて剥離再塗装を行います。
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ちなみに、メンテナンス前の写真はこちら。
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サボナローラやXシェイプ、クロスフレームなどと呼ばれるシルエットが特徴的な椅子ですが、意匠的な歴史をみると古代ギリシャや古代ローマ、さらには古代エジプトまで遡ります。

イギリスでは中世以降、特に家具という概念がより一般的になる近世に入ってから様々なスタイルで作られました。
下の写真は店頭に置いている資料の写真ですが、リージェンシーやジョージアンと表記されるモノが多く、アーム及び背もたれの有無、座面が木製のモノや生地が張られたモノなどいろいろです。
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いつもながら話が逸れますが、後半2枚の写真にはそれぞれサザビーズとクリスティーズの落札価格が書かれています。

£491=$805
£27,600=$45,816

「これポンドで買って、そのままドルで売ればいいじゃないかっ!」と考えた方もおられるかと思いますが、実はこの2枚の写真が載った資料は1999年に発行されたものになります。
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(世界経済のネタ帳HPより)

とても見やすいグラフをネットでみつけたので、1999年を見ると対ポンドで約1.6ドルの時代でした。
現在のレートは1.26ドルとのことなので、今は£491=$618、£27,600=$34,776になります。
もちろん当時の対円相場も今と違いますし、起点をどこにするかで高い安いを一概には言えませんが、上のグラフだけで見るとこの何年か米ドルは強いですね。

あ、これ以上為替の話をすると愚痴りだしますので話を戻します(笑)

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さて、別の本には羊の頭があしらわれたXシェイプチェアのイラストがありました。
これはリージェンシー様式を確立させたデザイナーのひとり Thomas Hope(1769-1831)の作品になります。

リージェンシー様式は摂政様式と訳され、ヴィクトリア女王の伯父にあたるジョージ四世の時代を指しますが、その父ジョージ三世時代に広まった新古典主義(古代ギリシャや古代ローマの芸術復興運動)の流れを踏襲したスタイルになります。
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以前、ご縁があって観せていただいた特別展の図録を引っ張り出してきてページをめくると、確かに近しい意匠を随所に見ることができます。
(図録の写真はここで載せられませんが、いつも店頭に置いていますので興味のおありの方はご自由にご覧ください)

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代わりにトーマス・ホープの意匠が載った資料を載せておきます。
図中No4の椅子にはライオンがあしらわれていますね。
また、写真では判り難いかも知れませんが、ページの上には『English Empire Style (?)』と疑問符と共に記載されています。
エンパイア(英)/アンピール(仏)様式は、ナポレオン帝政時代(1804-1814.1815)に流行したフランスに於ける新古典主義様式ですが、トーマス・ホープはそのフランスの様式も自身のデザインに上手く取り入れ、独自のスタイルを築きました。
強いて訳すなら、『英国流帝政様式』で良いでしょうか?

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イギリスに於ける新古典主義様式を代表するデザイナー/建築家としては Robert Adam(1728-1792)が挙げられると思います。
先述のトーマス・ホープはロバート・アダムが設計した屋敷を購入して、内装を古典的意匠で改装しました。

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アダム様式として今も遺る彼のデザインは、多くのデザイナーに影響を与えました。
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(V&A 2020.3撮影)

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有名なところでは、George Hepplewhite(?-1786)もその一人です。

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同世代の二人ですが、デザインを比べると納得です。

店頭のモノたちもあらためて見ると、新しい発見や気付きがあるかも知れませんね。
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そうこうしているうちに、椅子が組み上がりました♪
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まだ木部の調整が残っていますので、「どんな生地を張るか?」や「単鋲 or ブレードで仕上げるか?」などを考えつつ、実際に生地を張る作業は来週末になると思います。
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今なら、お好きな生地を張ってお納め出来ますっ!

という宣伝でした(笑)

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